通常版
一番最初のもので、最も普及しているバージョン。従来「12話ビデオ」と言えば―タケダCM版も存在はしていたが―、この通常版を指していた。
しかし、90年代末期にTNT版・ドラキュラ版が登場し区別するために「通常版」と呼称されるようになった。
特徴はAパート終盤の作戦室・百窓夜景がない事。だが、長らく話題にはならなかった。これは通常版自体が手に入りにくかったので、
話題が12話そのものに集中し、このシーンの検証まで行かなかったのだろう。
しかしながら、同人誌「被爆星人の逆襲」ではAパートフィルムの項で言及すると同時にフィルムから抜き出したと思われる作戦室・百窓夜景の
シーン写真を掲載している。その他僅かではあるものの、当該シーンに言及している同人誌もあった。
何故、Aパート終盤が無いかであるが、はっきりとした事は判らない。ただ、ソフト化されている他の話数と比較すると若干短い。
そこから通常版は本来の形ではなく、再放送に使用されたフィルムのテレシネではないかという説がある。個人的にはこの説を支持したい。
また、かつては諸説あったが、現在では「フィルムをテレシネしたもの」で定着している。放送を録画したものにしては全くCMがない事や
時期的にも家庭用VTRの登場したのが70年代中盤を考えれば、69年の再放送を録画する事は不可能だったと言える。
そして、決定的な証拠といえるのがメインタイトルが始まる直前にある「左から差し込む光」である。これはドラキュラ版にもあるもので、
カウントダウンの「1」に相当する部分である。実際にフィルムを検証した同人誌からも冒頭にカウントダウンが存在した記述があり、フィルムテレシネは
間違い無いと見ていいだろう。

(メインタイトル直前にある「左から差し込む光」。ドラキュラ版にも存在し、カウントダウンの「1」に相当する)
出元であるが、説は幾つかあるものの、これまたはっきりとした事は判らない。ただ、通常版にもバージョンが二つある。画面右側に縦筋が入っているものと
入っていないものである。このうち、縦筋のあるバージョンは90年代にドラキュラ版とともにテレシネされたものらしい。この際に使用された
フィルムは「ウルトラマン大事典」のフィルムストーリーにも使われたそうで、この段階では縦筋が確認されていない。この後の上映会で
傷がついたのではないかと言われている。
もう一方の縦筋のないバージョンであるが、こちらは円谷プロ内部でテレシネしたものとされている。だが、何故テレシネされたのか、どのような経緯で
円谷プロから流出したのかは不明。流出に関して言えば、以前は円谷プロに出入りする事が比較的容易だったらしく、そうしたファンから徐々に
出回ったと推測出来る。しかし、このような流出であったため、持っている人と何らかの繋がり―その多くは特撮関係のサークルだろう―が
なければ、入手するのは難しかったようである。
脚本にも簡単ではあるが触れておこう。
脚本には準備稿と決定稿があり、決定稿にも手書きで書き加えられた「実相寺監督仕様」と「完成台本仕様」がある。
一般的に知られているのは決定稿で、同人誌の再録もほぼ全てが決定稿である。準備稿の存在が知られたのは00年代に入ってからで、
それまでは殆ど知られていなかった。これは決定稿がスタッフ・キャスト用などの200部(初期の何話かは若干少ない)刷られるのに対して、
準備稿は全て50部しか刷られなかったので実物の確認が不可能に近かった為と考えられる。また決定稿は色表紙であり、全て色違いであるが、
準備稿は全て白表紙である。12話の決定稿は180部刷られ、色表紙は山吹色となっている。
12話の準備稿と決定稿の違いとして、タイトルが挙げられる。準備稿では「遊星より愛をこめて[仮題]」が決定稿では
「遊星より愛を[仮題]」と短くなっている。だが、これにはあまり深い意味は無いらしく、「単に長かったから略しただけ」(実相寺監督談)という話である。
内容に関しても基本線は同じ。大きな違いでは、アジトでの戦闘にスペル星人が3人出てくる。これは巨大化したスペル星人であり、決定稿では
巨大化するスペル星人が一人と宇宙船に変更されているが、予算の都合で変更になったようだ。次に主なシーンでの変更点を以下に挙げる。
シーンナンバー | シーン | 準備稿 | 決定稿 |
12 | レストラン | 早苗が学校に電話する | 早苗の方に連絡が入る |
15 | 医務室 | 伸一がつけている腕時計を取り返そうとしない | 取り返そうとする |
15 | 医務室 | アンヌが呟きながら伸一の腕時計を見つめる | 呟きながらビデオシーバーで連絡 |
16 | 作戦室 | アンヌが作戦室で会話している | キリヤマ隊長がアンヌからのビデオシーバーへ返事 |
24 | 部屋の中 | 佐竹にダンとアンヌが見つかり戦闘に入る | 次のシーンでダンとアンヌが隠れる |
この後はシーンが入れ替わっており、ストーリーが違ってくる。
決定稿ではダンとアンヌが隠れた後に作戦室で話し合いがあり、翌日新聞広告が入って子供達がアジトヘ集まった所で戦闘に突入。準備稿ではダンとアンヌが戦闘に突入した所に応援が来る。
そして戦闘してスペル星人が去った後で新聞広告が入るものの、アジトは既に爆発してなく、子供達が集まるシーンが無くなっている。また、後半の戦闘への
繋がりも変更されている。決定稿ではスペル星人の攻撃を受けたウルトラホーク1号が修理後氷川貯水池へ向かうが、準備稿ではシーン入れ替えの結果、
怪しい電波をキャッチして調査・警戒中のウルトラホーク1号が向かう形になっている。
読み比べてみると、準備稿は決定稿より事件解決まで長い日数がかかっているような感じを受ける。例えば、ダンとアンヌが佐竹たちを尾行するのが
決定稿ではアンヌが早苗に佐竹を紹介してもらった日であるが、準備稿は翌日―つまり、伸一の学校でアンヌは早苗・佐竹と判れて基地に帰投―になっている。
また、幾らかセリフが削除されている。間引いた、という感じであろうか。
次に実相寺監督仕様について。基本的にセリフの変更点は少なく、書き込みの殆どが演出の指示である。また「血の話」「吸血鬼ドラキュラの話」「19世紀的」などの
書き込みやロケ地も幾つか書かれている。ただ、残念な事に検証に使用したコピーでは字がかすれている所も多く、表紙の裏などに書かれたものは判読できなかった。
注目すべき点としては既にカットするシーンが決定されていた事である。以下の表をご覧いただきたい。
ページ | シーンナンバー | シーン | 欠表記の有無 | 完成台本の斜線 |
a-12 | 13 | 走るタクシーの中 | 有 | 無 |
a-14 | 15 | 医務室(冒頭のみ) | 無 | 無(セリフのみ棒線で削除) |
a-18 | 18 | 繁華街 | 有 | 無 |
a-18 | 19 | 国電の中 | 有 | 無 |
b-4 | 27 | 洋館の庭(夜) | 無 | 有 |
b-10 | 35 | 二子山 | 無 | 無 |
b-10 | 36 | 洋館近く | 有 | 無 |
b-13 | 40 | 原っぱ | 無 | 有 |
b-17 | 46 | 入口 | 有 | 無 |
台本のシーンナンバーの上に「欠」表記があるシーンは最初から撮られなかったようだが、「欠」表記の無いシーンは実際に撮られている可能性がある。
理由は完成台本仕様決定稿で述べる。その他、音楽の指示なども書かれている。
最後に完成台本仕様決定稿を。
表紙の「ウルトラセブン」の下に手書きで<完成台本>、―遊星より愛を―の右「―」を消し手書きで「こめて―」が書き足しされて、
[仮題]も消されている。本編もセリフを中心に付け足し、書き換え、または削除を行っている。例えば
a-7 アンヌ「久しぶりねえ……でも、おでかけ?」
伸一「デートなんだよ、これから」
の間に
早苗「ええ」
が追加されている。
b-13 アマギ「畜生!」
は棒線で消されている。
完成した本編に準じたものとなっており、それが実相寺監督仕様との大きな違いである。この完成台本仕様はアフレコ用なのかもしれない(セブンは撮影と同時の録音ではなく、
音声はアフレコしたものである)。それでも映像とは若干の違いがある。これはアドリブなのだろうか。
この他に斜線でカットシーンを表している箇所が二つ有る。上の表で判るのだが、実相寺監督仕様とほぼ対をなしている。欠表記のあるシーンは最初から撮らなかったので
アフレコのしようが無くそのままにしても問題なかったが、欠表記の無い、完成台本仕様で斜線が引かれているシーンは画として入っているものの、アフレコ段階で
カットが決まったのでこのような処置が取られたと推定する。もし、撮影されていなければ斜線措置をする必要が無いか、或いは撮影されていない全てのシーンに
斜線が入っているべきで、他に斜線を入れる整合性のある理由が見当たらないと思うのだが……。
対となっていない15 医務室(冒頭のみ)と35 二子山であるが、医務室の方は斜線こそないものの棒線による削除で事実上対をなしている。よって35 二子山のみが例外的であるが、
実際の映像ではウルトラホークの飛行シーンが入っており、完成台本仕様では代替シーンとして斜線の対象にはならなかったと思われる。
逆に序盤にある
a-4 7高速道路、8病院・前
は最終的な編集まで残ったようだ。実相寺監督仕様ではロケ地が書かれており、監督自身もあやふやながら「撮った気がする」という話である。
完成台本仕様でも8病院・前に
救急車のサイレン
フルハシ「どうしたんだ?」 人々の声 人々「自動車事故」「死んでいるのかナ」ガヤガヤ
と書き加えられている。本編ではある救急車のサイレンは準備稿・決定稿ともに記述は無いないが、実相寺監督仕様に「Gパトカーのランプ」という書き込みが
あり、―救急車とパトカーの違いはあれ―シーン8に挿入される事が示されている。本編のサイレンは恐らく時間的な都合でカットされた、このシーンの名残といえるだろう。
尚、決定稿は「佐々木守脚本集 故郷は地球」(1995/三一書房)に収録されているが、2箇所セリフが変更されている。
9 研究室 ダン「すると、話にきいた原爆病とよく似た症状じやあないですか」が「血液が異常に少なくなっているというんですか。単なる病気とは思えませんね」
となっている。この直前の福田博士のセリフも「それも白血球が皆無に近くなっています」が「体内の血液が皆無に近くなっています」に変更……ダンのセリフも
そうだが、福田博士の「血液が皆無」とは正に吸血鬼ドラキュラ……(^^A
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