86年仕様(カット)版



B―1のパターンで、86年に東宝が発売しようとして中止になったヴァージョンである。

完全ノーカット版同様にシネスコで収録され、86年3月1日にビデオが12800円、4月21日にはLDが9500円で発売される予定であった。ドラマCD解説書によれば、カット部分はテント内の人喰いシーンが18秒、軟体人間のシーンは57秒カットされている。 尚、CD解説書によると抗議騒動を書いた新聞ではカット部分が計1分45秒となっていたのに対し、レンタル16mmでは計1分18秒、86年仕様(カット)版は計1分15秒である事を指摘している。 新聞記事は「ニューギニアの場面については二コマ、計四十九フィート、ラストシーンでは一コマ、九十一フィート、あわせて一分四十五秒分のフィルムをカット」(抄録)とある。35mmの上映プリントは1秒=1.5フィート(1フィート=0.67秒)。 ニューギニアの49フィートは約33秒、ラストシーン91フィートは約61秒で、計1分34秒程度となる。確かに1フィートを何秒で計算するかで変わるのだが、新聞の「1分45秒」はちょっと長すぎのように思える。また記事中の「1コマ」は「1シーン」と解釈すべきだろう。

この時間の誤差であるが、ニューギニアの場面については二コマ(=2シーン)″ということと時間の食い違いがラストシーンに比べ大きい事から原住民のアップシーン(テレビ版ではカットされているシーン)や襲撃シーン等、もう1シーン15秒程度が上映プリントでは削られていた可能性がある。

新聞発表86年仕様(カット)版レンタル16mm海外版 テレビ版
人食いシーン約33秒(49フィート)約18秒約16秒約21秒―――
軟体人間シーン約1分01秒(91フィート)約57秒約1分02秒約3秒約1分02秒
合計約1分34秒(140フィート)約1分15秒約1分18秒約24秒約1分02秒
(実際の新聞記事中の合計は1分45秒)

完全版人食いカット16mm仕様 完全版人食いカット86年仕様 海外版カット直前
(左が裏テレシネ版から判明した16mmのカット直前シーン。中央は裏テレシネ版より推測した86年仕様のカット直前シーン。右の海外版より若干長いと予想される)

完全版軟体人間カット16mm仕様 完全版軟体人間カット86年仕様 テレビ版カット直前
(同じく左は裏テレシネ版から判明した16mm、中央が推測した86年仕様のカット直前シーン。テレビ版と16mmは、ほぼ同じである)

ここで抗議と上映プリントカットについて多少記しておく。「公開後まもなくカットされていた」という証言もあれば、「カットされていなかった」という証言もあり、CD解説書には「全国規模でのカットは噂の域を出ない」と明記している。
個人的な調査では、抗議が表面化したのは74年11月初旬。更に「一部カット」が決定したのは12月下旬である。読売新聞12月19日付記事によれば、「二十一日から姫路、岡山、和歌山地区で上映される分からカットされる。」(抄録)とある。 「ノストラダムスの大予言」は8月から本公開され、本公開終了以降も全国各地で順次公開が行われていた最中の出来事である。

以上の点から推察するに8月から12月中旬までは問題無く上映された。そして、12月21日以降に上映されていた分は抗議が起こった関西方面を手始めとして順次カットされていった。当然、中には公開期間途中から上映プリントのカット処置をした所もあっただろう。それが公開3日後であったり、1週間後とまちまちであった可能性は高い。 「公開直後にカット」「公開後1(2)週間でカットされた」という話は、この一部地域での騒動が一人歩きして話が大きくなっていたものと考えられ、噂として出てくる「74年夏のロードショー時にクレームがつき、東宝が全国200館の劇場に指示を出して即座に該当シーン削除の対応をとった」という話は事実が誇大化されたものではないだろうか?こう考えると、前述の証言も見た時期と場所によって変わるとすれば左程不思議な事ではない。
個人的にはファンタゴールデンアップル騒動(注)″を思い浮かべた。が、資料ソースが殆ど無い為に真偽を明らかにするのは難しいだろう。

最後に流通に関してであるが、某事情通氏は「殆ど話を聞かないことから流通はしていないだろう」と言っていた。参考資料的なものとして東宝にサンプル版があってもおかしくはないが、一般的には出まわっていないという事なのだろう。 いずれにしても現在では完全版が存在し拡散しているため、仮に出回っていてもテレビ版同様のコレクターズアイテムといったところ。

注) ファンタゴールデンアップル騒動
  某所で議論されたもの。「かつてファンタにはゴールデンアップルというものがあった」という話を巡って肯定・否定派が激論を繰り返した。否定派は当時の広告やコカ・コーラ社への問い合わせ、各種文献を調査し、存在証拠が無いと主張したのに対し、肯定派は様々な可能性を提議して対抗。 しかし、肯定派の論拠となるものは各人の記憶・証言以外無く、また提案した仮説と矛盾した証言も多かった。そして、最終的には「ファンタゴールデングレープ″の誤認」という結論が出たのである。
ゴールデングレープとは、グレープに使用していた色素に問題が発生し止む無く発売されたもので色は金色であった。こちらはゴールデンアップルと違い、空き缶・王冠が存在し文献にも登場、ほんの短い一時期ではあったが存在が確認されている。ただ、色とネーミングから同時期に販売されていた『アップル』を想像しやすく、多くの誤認を 生んだのではないか、と推察されている。とはいえ、この結論が絶対的なものではない事を明記しておく。
尚、ゴールデンアップルは2002年10月に新商品″として限定発売された(現在販売終了)。






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