アルジェント版
もう一つの「ゾンビ」であり、世界で最も知られているバージョン。概論で説明した通り、北米以外の地域ではこのアルジェント版が配給され、
世界的ヒットを飛ばした。原題の「DAWN OF THE DEAD」に「ZOMBIE」とつけた事とゴブリンの音楽を採用した事には功罪あるが、結果を見れば
功績の方がはるかに大きい。
しかし、日本では長い間視聴できなかったバージョンでもある。日本初劇場公開版はアルジェント版を元にしてあるものの、惑星爆発シーンを挿入し
ゾンビ発生原因を付け加えたり、ゴア(残虐)シーンではストップモーションやカラー処理が施されていた。そして85年に発売されたビデオはロメロ版であり、
オリジナルの形での視聴は94年まで待たねばならなかった。
94年、映画配給会社のギャガ・コミュニケーションズはDC版と同時にアルジェント版の版権も獲得、94年11月に小規模ながらもDC版に続いて
アルジェント版を配給する。ここで初めてオリジナルのアルジェント版が日本で公開されたのだった。時期は銀座シネパトスにて94・11・25から、また池袋シネマセレサにおいて
12・17よりDC版に続いて公開された。その後、ビデオなどがリリースされ現在でも視聴出来るようになったが、ビデオ・LD-BOX・DVDと何れも廃盤。→07年12月にDVD版が廉価で再リリースされた。
ロメロ版・DC版にはワイド仕様があるが、アルジェント版は全てスタンダード。
→2007年レストア版を使用したDVD・BDはワイドで収録されている。(24年3月追記)
特徴はゴブリンのロックに乗せたサバイバルアクションホラーに仕上っている事。そのテンポの良さはロメロ本来の「重厚さ」を皆無とも言えるほど
消し去り、同じ画を使いながらもここまで違うものに仕上げてしまうアルジェントの手腕は「ヒットメーカー」と言うに相応しい。先の「罪」はオリジナル
である「ロメロ版」を全く違うものに変えてしまったことであるが、「功」は「魅せる映画」に仕上げ大ヒットさせた事と「ゾンビ」という言葉をタイトルに持ってきた事。
もし、アルジェント版がなかったら、日本では3部作最終作の「DAY OF THE DEAD」の「死霊のえじき」のような邦題をつけられただろうし、「ゾンビ」という言葉が一般化しなかったかも
しれないのだ……。
ロメロ版とのシーン違いはゴアシーンが多く、デパートの生活などがカットされている。以下がロメロ版でカットされているシーンである。

(サイレン、ゾンビを覗きこむSWAT隊員はDC版にもないアルジェント版のみのシーン。巡視艇基地はヘリ到着からスティーブンが中に入るまでが収録されている反面、警官との会話シーンが無い。ロメロ版は逆)

(頭部破壊とピーターがドアを閉めるシーンはアルジェント版のみ。ピーターが閉めた後に来る族の襲撃会議もアルジェント版のみ。手首はDC版に収録)

(族がトラックを退かすシーンはDC版よりも短い。族をゾンビが食うシーンはロメロ版ではバッサリカット。名残として血圧計に腕があるシーンだけ収録されている。DC版では首切断と共に収録されている)
この他、「テイク違い」として全く違うシーンがある。フランが悪阻でトイレに行った後にスティーブンが探すシーンであるが、アルジェント版に比べてロメロ/DC版はかなり短い。


(上がアルジェント版。フランが悪阻でトイレへ向かうシーン、ピーターが壁に塗るペンキを開けるシーン、その後スティーブンがフランを探しに行くシーン。下のロメロ版は
直前の木材を切るシーンから続いており、フランがトイレへ向かうシーンもなく非常にあっさりとした印象を受ける。映画全体ではロメロ/DC版の方にドラマ部分は多いが、このシーンではアルジェント版の方がドラマ部分に厚みがあり逆転している)
エンドロールは「SARATOZOM」をBGMにした黒バックのロール方式。日本初劇場公開版では切られている。
追記:上映当時の35mmフィルムをテレシネしたイタリア版でもエンドロールは無く、元々なかったのかもしれない。

このアルジェント版であるが、日本でリリースされたものは2ヶ所カットされている。
検証したのは最初にリリースされたLDのパーフェクトBOX版だけであるが、同じマスターを使用していると思われる国内リリースものは
何れもカットされている可能性がある。アンカーベイ社から出た北米発売ものには収録されているのだが……。引き続き、調査を行いたいと思う。
左がカット直前シーン、真ん中がカットシーン、右がカット直後のシーン。カットシーンはロメロ版(ワイド仕様)を使った。

(モール内の死体を冷蔵庫に移すシーン。真ん中のピーターとスティーブンが運んで行くシーンがカットされている。その為、左のシーンと右のシーンで音楽の繋がりが変になってしまっている)

(ラスト近く。計器を見ているフランのシーンがカット。この影響で、左のドアシーンにヘリの音が被さってしまっている)
DVD版も同様であった。日本劇場初公開版では当該シーンが確認できたのだが、一体何があったのだろう……。(08年1月追記)
45周年コレクターズ・エディションに収録された94年上映プリントで当該シーンのカットが確認出来た。つまり、大元からカットされているので、これを素材にしたソフトに当該シーンが無いのも当然である…まさか、日本でのオリジナルに存在しないとは思わなかった(笑)
その後、2007年レストア版を使用しているDVD、BDでは当該シーンが収録されている。しかし、何故94年上映プリントでカットされ、それが素材として使用され続けられたのかは謎である……(24年3月追記)
このカットバージョンは日本だけでなく、海外でもマスターとして使われていたようだ。確認したものはフィンランドのもので、2000年代に出たDVDのようである。(24年5月追記)
新世紀完全版 DVD-BOXでは、残酷シーンがカットされていない「木曜洋画劇場」再放送版に近い<擬似>TV編集バージョンを見ることができる。方法は、メニュー画面で「Play Movie」ボタンが反転した状態で左方向キーを押し、メニューボタンの一番右にある「手のひら」が反転した状態で<決定ボタン>を押すと、隠し特典の再生が始まる。
また素材が2007年リマスターになり、OPのタイトル・クレジットの表記タイミングが変更されている。全体的に早くなり、例えば「ZOMBIE DAWN OF THE DEAD」の出るタイミングが旧素材ではフランが画面に登場してズームアウトがストップしてからタイトルが出てくるが、リマスターでは始まって直ぐにタイトルが出て、ズームアウト中に消える為フランに被っている時間が短い。
(左はタイトルが出た直後。中央はタイトルが消える直前。右は旧素材スタンダードDVDのもの)
製作45周年コレクターズ・エディションでは、特典ディスクに94年上映プリントをフルフレーム・字幕焼き付けで収録されている。

(冒頭の注意書き、本編前タイトル、本編タイトル。本編前タイトルに映倫マークが見える)

(右は旧DVDスタンダードのもの。テレシネ版との比較用)

(上記以外にもカットされている箇所。真ん中がカット箇所。テレシネ版のみなのでフィルムに問題があったのだろう)
また、本編ディスクはアルジェント版、ディレクターズカット版が同時収録されている。今まで1バージョン1枚収録が基本であったが、このような変則収録になったのはアルジェント版ベースの最長版を実現するためである。以前のもの比べ画質が落ちているものの、チャプターと連続再生を駆使して擬似的にではあるが公認ソフトで実現させたのは画期的である。だが、版元はよろしく思っていなかったようだ。これは編集権は認められなかったものの、日本語のみということで仕様を認めてもらったが、やはり駄目となったとの事だ。日本でのライセンスを持っているフィールドワークスが「緊急のお知らせ」で半年での販売終了、再販の予定なしを告知した事からも際どいソフトだったのだろう。その割には、ドイツでは勝手に編集したファイナルカット(コンプリートカット)版が普通に売られているのだが(笑)
追記:緊急のお知らせから一年余りを経て24年08月に販売が再開された。「権利期間延長」によるという事で上記の編集権云々が原因ではなかった、という事なのだろうか…。ここら辺の事情を聞いてみたいものである。(24年08月)
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