日本劇場初公開版OP研究・検証

〜失われたOPを求めて〜


日本劇場初公開版は、数あるバージョン違いでもかなり特殊な部類に入る。特に冒頭の惑星爆発シーンに英語テロップの追加は有名だ。だが、OPのテレビ局シーンも他に類を見ない特殊なものである事をご存じだろうか。
今では失われてしまったかもしれない日本劇場初公開版のOPを検証してみたいと思う。

先ず、ロメロ版・アルジェント版・ディレクターズカット版の比較をしていく。基本的にアルジェント版とロメロ版・ディレクターズカット版に分けられ、そのバージョンのみのシーンが存在する。短いシーンが多いが殆どがアルジェント版にしかなく、ロメロ版はかなり短縮されている。

シーンアルジェント版ディレクターズカット版ロメロ版
女性が一息つく××
女性が座るシーンが長い××
テロップを打ち込むシーンが長い××
司会者のシーンが長い××
最善は尽くしている××
テロップを消させる×
テレビ画面が長い××
自滅よの前シーン××
テロップ打ち込み×
博士の説明×
上司が来るシーンが長い××
フランの説明が長い××
博士と司会者のショットが長い××
ガードマンが立ち去る×
博士の説明が長い××
博士が手を払う××


アルジェント版のみにあるシーン
アルジェント版のみ  アルジェント版のみ  アルジェント版のみ

アルジェント版のみ  アルジェント版のみ  アルジェント版のみ
アルジェント版のみ  アルジェント版のみ  アルジェント版のみ
アルジェント版のみ  アルジェント版のみ  アルジェント版のみ

ロメロ版のみ無いシーン
アルジェント版のみ  アルジェント版のみ アルジェント版のみ

ロメロ/ディレクターズカット版のみにあるシーン
ロメロ版のみ1A  ロメロ版のみ1B
ロメロ版のみ2A  ロメロ版のみ2B


また、上司に呆れてスタッフが部屋を退出するシーンはアルジェント版とロメロ・ディレクターズカット版とで全く違うシーンになっている。これはペンキ塗りのテイク違いというよりもアルジェント版はテープをかけるシーン、ロメロ・ディレクターズカット版では店内放送が流れる分割されたシーンに近い。
流れとしてはアルジェント版の女性スタッフが出ていく→ロメロ・ディレクターズカット版の上司が激昂するという繋がり。ドイツ全長版もこの順序で繋げており、ラフカット版ならばスムーズな繋がりになっているだろう。
アルジェント版退出1  アルジェント版退出2
ロメロ版上司怒り1 ロメロ版上司怒り2  ロメロ版上司怒り3


では、日本劇場初公開版を検証していこう。日本劇場初公開版は、94年に公開されたアルジェント監修版とは似て非なる存在だった。それはどういう事なのか。

先ずは日本初劇場公開版のタイトル・クレジットを列挙していく。ただ、オリジナルは映画館で映写されたものを撮影している為、非常に見にくい。そこで同じ素材を使っているテレビ放映(サスペリア)版を使用した。参考までにオリジナルも載せてある。
サスペリア版クレジット1  サスペリア版クレジット2 サスペリア版クレジット3
サスペリア版クレジット4  サスペリア版クレジット5 サスペリア版クレジット6
サスペリア版クレジット7  サスペリア版クレジット8 サスペリア版クレジット9
アルジェント版、ロメロ(=ディレクターズカット)版、日本劇場初公開(テレビ放映)版を同時に流すとカットはアルジェント版と一致、クレジットタイミング・字体はロメロ版と一致する。つまり、ロメロ版クレジットを使用しているアルジェントカット。しかし、この様なバージョンは他に存在しないのだ。

次に各国語版タイトル・クレジットを見ていこう。
イタリア語タイトル  ドイツ語語タイトル 英語タイトル
(イタリア版[35mmテレシネ]、ドイツ版[35mmテレシネ]、イギリス版のタイトル。ドイツ版が独特すぎる(笑)
イタリア語クレジット  ドイツ語クレジット 英語クレジット
(イタリア語、ドイツ語、英語各クレジット。やはりドイツのフォントが独特)
更に94年公開アルジェント監修版を元とする素材と2007年リマスターでは、タイトルやクレジットの表示タイミングが変わっている。これらはノンクレジット素材が存在することを示唆している。ノンクレジット素材、タイトル・クレジット用フォントがなければ、イタリア語タイトルや2007年リマスターでタイトルの表示タイミングが変更する事は出来ないと思われるからだ。

しかし、ノンクレジット素材があったとして、わざわざロメロ版仕様のクレジットを入れる理由が判らない。そしてクレジットの表示タイミングはロメロ版と一致してるが、そこまで細かく合わせるものなのだろうか…。
ちなみに余談になるが、日本劇場初公開版の項にて「タイトルにZOMBIEが無いのにどうやってつけたのだろうか」と書き記した。これは書いた当時2002-3年ではヨーロッパ各国語版を見るのが難しかった(PAL方式でヨーロッパ仕様の機材が必要だった)事と余り各国語版に興味を持っていなかった事に起因する。94年公開版が各国でのアルジェント版、即ちヨーロッパ版と思い込んでいたからである。
ところが、実際には「ZOMBIE」がタイトルであり、原題の「DAWN of the DEAD」は欠片もない。変な邦題が付けられるような隙はなかった訳だ。となると、到着したフィルムのタイトルが「ZOMBIE」ではなく「DAWN of the DEAD」だった事はどう思っていたのだろう…。

そして、最も謎なのが一番最初のクレジットだ。
サスペリア版ローレルクレジット  劇場盗撮版ローレルクレジット
(左はテレビ放映版、右は劇場撮影版)

アルジェント版は、イタリア語仕様のみ最初にアルジェントクレジットがくる。
イタリア版アルジェントクレジット

他はロメロクレジットからスタートする。
イタリア語ロメロクレジット 94テレシネロメロクレジット ドイツ語ロメロクレジット
(イタリア語仕様、94公開テレシネ版、ドイツ語仕様。イタリア語仕様はアルジェントクレジットの次で、字体も英語仕様と同じ)

ロメロ版・ディレクターズカット版はローレルクレジットであるが、文言が違っている。
ロメロ版ローレル ロメロ版製作 再放送版製作
(ロメロ35mmテレシネ版。右の再放送版と製作クレジットを比較すると字体など同じものである事が分かる)

この日本劇場初公開版にはない二人の名前、ハーバート・R・スタインマンとビリー・バクスターはアメリカ側の出資者。「ゾンビ」はアメリカ側の資金だけでは足りなかったので、出資者を探していた。それに応じたのがイタリアのダリオ・アルジェントで、プロデューサー業の弟のクラウディオ・アルジェント、アルフレッド・クオモの二人が次にクレジットされている。
その結果、権利が分かれて英語圏のロメロ版と非英語圏のアルジェント版が出来たのだが、日本劇場初公開版のローレルクレジットは権利関係かアルジェント側への配慮かは分からないがアメリカ側出資者の名前がないアルジェント用にカスタマイズされたものと思われる。

上記からロメロ版クレジット仕様のアルジェントカットを作るには
1・ノンクレジットのアルジェントカットにロメロ版クレジットを入れる
2・アルジェントの元に送られたディレクターズカットよりも前段階のラフカット長尺版にロメロ版のタイトル・クレジットが既に入っており、それを使用してアルジェントカットを作製した
の二通りが考えられる。
1の場合、可能性としては「英語表記が必要だった」というもの。ノンクレジット素材があるといっても、公開する各国語仕様を作る訳にはいかないだろう。そこで汎用として英語仕様を作った…ならば、94公開アルジェント版で良いのではないだろうか?実際、作っているのだし、ロメロ仕様をわざわざ作る必要性は感じられない。ただ、94公開英語仕様アルジェント版がいつ作られたのかという点で1を完全否定する事も出来ないだろう。ビデオ版を発売するにあたってアルジェント版の英語仕様を作製したならば、劇場公開当時はロメロ仕様のOPだった可能性は残されている。

とはいうものの、2の方が合理的ではある。最初にロメロ版クレジットの入ったものでカットを行い、その後ノンクレジットのものを送ってもらってノンクレジット素材を作製した。つまり、ロメロ仕様アルジェントカットは試作品だった、という推察が成り立つ。この順序が逆でも一応は成立する。英語仕様が必要になったので、ロメロクレジットの入った長尺版を送ってもらった…この場合も英語仕様アルジェント版が何時作製されたのかがポイントになるのだが。

至極簡単に考えるならば、2の試作品を作ったが、ノンクレジット素材を作り各国語仕様を作製。現在のアルジェント版で視聴できる英語仕様もこの時に作製。しかし日本での公開は急に決まった話だったので、手元にあった試作のロメロ版クレジット仕様のアルジェント版を送った…こんな所だろうか。

いずれにしても英語仕様アルジェント版を上映した国で当時のフィルムを使ったテレシネ版が現れれば、考察も進むだろう。日本で94年に公開され多くのソフトに収録されている英語仕様アルジェント版が78年当時から上映されていたのか、それともロメロ版クレジット仕様だったのか。もしも英語仕様が当時も上映されていたなら、ロメロ版クレジット仕様は日本劇場初公開版のフィルムと共に「幻」となってしまうだろう…。
94年ディレクターズカット完全版公開時のパンフレットやパーフェクトLDボックスのライナーノーツのバージョン紹介で日本劇場初公開版も簡単に紹介されていたが、「一つに気になるのはオープニングクレジットがロメロ版と同一」と30年前、既に言及されていた。この頃ならば日本劇場初公開版のフィルムも存在していたはずで、過去に戻って調べてみたいと切に思う。

あまり語られない日本劇場初公開版OP、この謎が解ける時が来るのを祈って筆を置きたい。’24/04/30

追記:日本初公開復元版にてOPが再現されているのを確認した。これが元々素材として存在しているものなのか、新たに素材を作成したのか制作元に問い合わせたが残念ながら回答はなかった。(24年08月)




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